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美味しいトマトを作りたい。24歳就農女子の直向きな情熱


日盛りの暑い暑いビニールハウス内に涼気が流れ込むと、ささやかながらその風をありがたく感じた。
つばの広い日よけ帽に、長袖長ズボンで、ハウスを案内してくれる北島芙有子さんの頬には、大粒の汗が光る。

2015年11月。当時22歳の彼女が、大阪から短野にある井上農園へやってきた。
いま、2棟のビニールハウスを借りてトマトを栽培している。今夏、収穫の真っ盛りだ。

トマト農業との出会い

子供のころから動物好きで、虫好きの女の子。なので生物の授業も好きだった。
大学進学も自然とその道へ。奈良県にある近畿大学農学部では研究分野へ進んだが、遺伝子研究をする中で、除草剤をかけても枯れない野菜や、草は枯れても生きてる野菜を知ると、どうしても将来自分が研究に携わっているイメージが湧かなかった。
動物が好きなのに動物実験をすることへの抵抗感。
自身の性格に合わないと感じ、ずっと続けている姿が見えなかった。

そんな学業の傍ら、夏休み期間中のアルバイトを探していたところ、岡山県でのトマト農業の住み込みバイトを発見する。
遠方ではあったものの、もともとトマトが大好物だった芙有子さんは、両親を説得して参加することに。
その時、農家で食べたトマトの味があまりにも美味しくて衝撃をうけたという。
『今まで食べていたトマトはなんだったんだ…私もこんなに美味しいトマトを作りたい!その上トマト農家ならいくらでも食べられる!』
それからというもの、長期休暇のたびにトマト農業バイトへ赴き、トマトと育成の魅力に引き込まれていった。

 

思い通りにいかない現実、それでも一途に

トマトにのめり込んでいく一方で、大学を中退。
祖父母のいる名張で祖母の紹介を頼りに、2015年11月より井上農園の井上隆雄さんのもとで下積みを開始することになった。
呑み込みが早かったことを見込まれて、今年3月から1200株の苗を育てている。

毎日のスケジュールは、朝7時半頃から午前中は収穫作業。
休憩をはさんで日中は袋詰めをし、夕方陽が傾いて涼しくなると再び収穫、その後は夜まで袋詰め。最盛期の今、休みはなしだが、それでもぐんぐん育つトマトたちになかなか一人では手が回し尽くせない。
井上さんは言う
「ふぅちゃん、今は忙しくててんてこ舞い。そら、よう頑張ってるで。好きで仕事してる。
(最初は)“楽しくない、面白くない仕事やったらやめといた方がええ、自分が好きで入った道やないと続かん。”
それでも、“やる”いうさかい、ホンマにやるんかな?て思ってたけど(笑)」

彼女の物静かな印象の中にも、毎日を通して伺える芯の通った性格は、周りの人が応援したくなる魅力の一つだ。

 

ハウスのトマトは大方7月いっぱいで収穫を終える。
しかし、井上農園は短野でも比較的高度に位置し、後方に山がそびえているという立地の為、日が傾くと山の影で夏でも気温が下がりやすい。肥料をやり、手入れをし、馬力をつけてやることで、9月~11月まで出荷ができるように育てる。
収穫の終わりは12月の予定。
その時期まで収穫を維持するにも、夏場の今が正念場だという。

収穫期が終わると、今度は土づくりが始まる。
全ての苗を抜いて燃やし、そこから丹念な土づくり。1~2月の寒さの厳しい中、手作業で土を掘り返し堆肥を加えて3月の植え付けに備える。

 

 

一度始めたらのめり込む性格の“頑張り屋さん”

現在、芙有子さんのトマトは、「とれなば(とれたて名張交流館)」や、蔵持町にある「マックスバリュ名張店」の地場産コーナーにて「とまとの丘」の名で販売中。
また、(有)精肉のオクダが販売し、「隠タカラモノ農産加工所(イーナバリ株式会社)」が製造加工する、「トマトケチャップ」と「米粉のとまとドレッシング」の原材料として使用されている。

今後の目標は、まずは今作っているトマトを広く知ってもらうこと。
肥料を調合して、味も美容にも良いトマトを作り上げたい。
そして、新たな品種にも挑戦したい。

好きだからこそ続けられる。
好きだからこそ追及したくなる。

芙有子さんがこめた静かな熱意。
暑中のトマト作りはまだまだ続く。

※写真「トマトケチャップ」と「米粉のとまとドレッシング」

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