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チャレンジ精神で移住生活を愉しむ


 「名張って都会に住みなれた私達には程よい環境なんですよね。」そう話してくれたのはつつじが丘に在住の菅井久志さん・美幸さんご夫妻。脱サラ後、約16年間東京世田谷でメキシコ料理などいろんなジャンルの料理を提供するレストラン「バルバル」を夫婦で営んでいたそうだ。東日本大震災を経験され、震災を機に安全な地域を模索し近畿のど真ん中に移住先を求めていたところ、2014年3月に縁あって名張に移住してきた。

  

食への不安が
移住のキッカケ
 「東京にいた頃はコスト重視だった。」と「バルバル」でシェフとして料理を作っていた美幸さんは振り返る。「食べたもので体は作られる。だから出来るだけ良い物を使いたい。」そうは思っていても経営を考えると素材重視では運営が成り立たない。何を作って出せば良いのかと日々苦悩していた。そんな菅井さんご夫妻の価値観を一気に覆したのは東日本大震災だった。
 震災後、食への不安は更に深刻になり、幼い娘さんを預けた先でお子さんの口に入る物にも不安を抱くようになった。 更には小さな子供がいれば必然的に営業時間も短縮せざるを得なくなる上に、東京にいれば多額の保育代がかかる。「子供をベビーシッターや民間の保育施設に預ける費用を捻出するために営業してるような状態だった。」と当時を振り還る。   
よく知られるように東京は待機児童が沢山いるような状態。夜間の預け先に食事の内容まで注文はつけられない。更に悪いことにシェフ業は高齢出産後の身体には負担が大きく、子育てとの両立の中で無理が重なった美幸さんは2012年、救急車で搬送され大きな手術をすることになる。
 「この生活を続けると死んでしまう!と思った。」背中を押されるように夫妻は移住を決意し、食の安全と心豊かな暮らしを求め、奈良にすでに移住していた友人の伝を頼り移住先を探した。とはいっても移住して生活していくには再就職先を探さなければならない。久志さんは、移住後どう働くかを模索する中、会社員だと定年が近い年齢になってくるが、農業だったら若手かもしれない!農業をやってみよう!と移住がきっかけで知り合った美杉に住む知人の農場で自然農法の研修をうける事に決めた。
  

  

都会でも田舎でもない、あいまいな感じが
逆に住みやすい町
 ご夫妻は最初は農業研修先に決めた畑のある美杉への移住を考えたが、東京生まれ東京育ちの久志さんにはハードルが高い!と感じたという。 もう少し利便性が良く、農場にも近い場所はないか…と不動産をめぐり辿り着いたのが名張市つつじが丘だった。  
 そんなご夫妻に名張市の印象を聞くと「都会から急に山奥に住むと挫折してしまったかもしれないが、名張市はバランスが良く適応しやすかった。緑が多く程よい距離にお店もあって便利だし働く場所(チェーン店や工場)もある。何より庭のある家に住めるのが幸せ!世田谷ではつつじが丘の敷地面積だと中古住宅でも一億円以上する。東京の感覚で見るとここは豪邸!」だという。 最初は名張で田舎暮らしの経験をし、段階を経てもっと田舎へ…と思っていたそうだが、住むうちに住環境の良さに居心地が良くなり、ついには住宅を購入し名張に根をおろしたそうだ。

食に対する
意識を変えたい
 久志さんは現在「パクチー」を栽培して種取りまで行う他、関東原産の「のらぼう菜」や、小松菜、大根、人参、トマト、ピーマンなどを栽培している。 パクチーの種は西洋料理のスパイス、コリアンダーとして使用でき、パクチーの葉はメキシコ、南米、アジアの広域で料理に使われる。美幸さんの作る料理には欠かせない素材だ。
 美幸さんは「バルバル」を営んできた経験を生かして2016年春から「やなせ宿」にてワンデイシェフとして料理を作っている他、自宅のパーティ等への出張料理も引き受けている。調味料は伝統的な方法で作られたものを使い、タレやソースはすべて手作り。そんな手間暇と心のこもった食に触れることで、「食に対する関心や意識を変えたい。料理人は食べた人の健康にも責任を持つべき。健康を害するかもしれない素材を使った料理を量産すべきではないと思うんです。今はまだ思うように作物が作れてはいないが、行く行くは久志さんが作る自然農法の作物を使った料理を提供していき、食に関する事で地域に貢献できる事業をしていきたい。」と熱い思いを語った。

チャレンジ精神で移住生活を愉しむ
 久志さんは来年、自宅を利用してギター教室を開きたいと思っているという。久志さんは少年の頃より著名な師について学び、ギターについてはかなりの腕前。以前は自分の店でライブを行い高い評価を得ていたが、これを仕事にすることは全く考えたことがなかったという。しかし移住後、名張に音楽文化が少ないということに気づき、「全くダメかも知れない、でも未知の市場には無限の可能性があるかも。」と目を開いた。 農業と妻の作る料理、農産加工品、自分の教室。自分の持てる力はすべて利用してみる。世田谷でもそうやって店を黒字経営してきた。「何足でもわらじを履いたらいいと思っている。自分が変われば新しい出会いがある。チャレンジは楽しいです。」と明るい笑顔を見せた。

information

やなせ宿
〒518-0727 三重県名張市新町
電話番号:0595-62-7760
※ワンデイシェフのスケジュールはやなせ宿のホームページをご覧ください
http://www.yanase-shuku.com/event.html

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